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仙台地方裁判所 昭和28年(行)8号 判決

原告 庄司光造

被告 仙台市

主文

被告が訴外亡庄司慶蔵、同庄司光一に対しなした別紙目録(一)記載の各固定資産税賦課処分は無効であることを確定する。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、主文同趣旨の判決を求め、

その請求の原因として、

(一)  被告は別紙目録(二)記載の不動産に対する固定資産税の納税義務者を亡庄司慶蔵、別紙目録(三)記載の不動産に対する同税の納税義務者を亡庄司光一として、別紙目録(一)記載の如く昭和二十六年度並びに同二十七年度の各徴税令書を発し、同令書は昭和二十六年度分は同年四月二十日頃、昭和二十七年度分は同年四月二十日頃いずれも原告に送達された。原告は右賦課処分を不服として、被告に対し、右徴税令書受領の頃いずれも口頭で異議の申立をなしその是正方を求めたが容れられず、改めて昭和二十七年六月二十日書面をもつて昭和二十六、七年度の各賦課処分に対し異議を申立てたところ、被告は之に対し同年七月十五日附で異議申立期間を徒過したから之を却下する旨決定し、その頃右決定書を原告に送達した。

(二)  本件各賦課処分は、次に述べるような違法があり、当然無効の処分である。即ち

(1)  別紙目録(二)記載の不動産は元原告の父庄司慶蔵の所有であつたところ、同人は昭和十七年八月十三日死亡、原告が之を家督相続し、別紙目録(三)記載の不動産は原告の長男庄司光一の所有であつたところ、同人は昭和十九年五月十八日死亡、原告が之を遺産相続し、いずれも原告の所有に帰したのである。

その後原告は、終戦以来社会秩序の紊乱下に生活する有子未亡人並びに経済的窮乏から不良化の一途をたどる青少年の救済を思い立ち、相続にかかる右不動産全部を提供して社会及び児童福祉、生活困窮者の援護のため財団法人の設立を企図、宮城県知事の許可を得て、昭和二十五年十二月二十八日財団法人庄慶会を設立し、同日その旨登記し、原告は同日右庄慶会に対し別紙目録(二)、(三)記載の不動産全部を寄附直ちに之を引き渡した。

従つて右不動産は昭和二十六年固定資産税の賦課期日である昭和二十六年一月一日以前既に原告の所有でもなかつたにかかわらず、被告はその所有者を誤認し、既に死亡している庄司慶蔵、同光一を前記各不動産の所有者と認め、右両名を昭和二十六年度並びに同二十七年度各固定資産税の納税義務者として前記賦課処分を行つたもので、本来納税義務者たり得ない者に対し課税した違法がある。

(2)  右(1)の主張が理由ないとしても、別紙目録(二)、(三)記載の不動産はいずれも社会福祉事業の用に供されているものであるから、本件課税の対象とならない。

即ち、財団法人庄慶会は前記寄附を受けた昭和二十五年十二月二十八日以降直ちに之等不動産をその目的たる社会福祉事業に提供して来たものである。

而して右庄慶会は昭和二十七年五月三十日社会福祉法人に組織変更し、その目的とするところは「援護育成又は更生の処置を要する者等に対しその独立心をそこのうことなく正常な社会人として国家社会に貢献することができるように援助することを目的として左の事業を行う。(一)第一種社会福祉事業、生計困難者の子弟に対し無利子にて学資金の貸与をなす事業。(二)前項の目的を達成するため左の事業を行う、生活困窮者に対する住宅貸付」である。

かくして庄慶会は右組織変更の前後を通じ、昭和二十五年十二月二十八日以降前記不動産から生ずる収益は挙げてその目的とする社会福祉事業遂行のために供し、現在に至つたものである。国及び県は右事実を認めて、右不動産を国、県各税の非課税物件となし、一切の課税を免除して来たが、被告は之等事実を無視し、前記課税処分をなしたうえ、その滞納処分による差押を執行して来た。

然しながら、本件不動産は前記の如く社会福祉事業の用に供するものとして、本件課税の対象とならないことは当時施行の地方税法第三百四十八条第二項第九号によつて明白であるにかかわらず、之が課税処分をなしたのは違法である。

よつて原告は、本件不動産の相続登記並びに前記差押のない状態において前記寄附行為による所有権移転登記手続をなすの必要に迫られ、そのうえに慶蔵、光一に対する本件課税の事実上の負担者として利害関係を有するため、本訴に及ぶ、と述べ、

被告の主張に対し、本件不動産につき相続登記等の手続をなさないために、台帳名義が被告主張の如き名義になつていることは認める。その余の事実は否認する、と述べた。

(立証省略)

被告訴訟代理人は、原告の訴を却下する、との判決を求め、

本案前の抗弁として、

原告は本件固定資産税の各賦課処分に対し不服あるときは、行政事件訴訟特例法第二条、地方税法第三百七十条に基き、その所定期間内に異議、訴願の手続をなさなければならないのに、之を怠り、昭和二十七年六月二十日に至つて原告主張の如き異議を申立て、同年七月十五日異議却下の決定がなされ、その頃該決定書の送達を受けたにもかかわらず、昭和二十八年五月十九日に至り初めて本訴に及んだものであるから、本訴は不適法な訴である、と述べ、

本案について、原告の請求を棄却する、との判決を求め、

答弁として、

原告の主張事実のうち、庄司慶蔵、同光一がその主張の如く本件不動産をそれぞれ所有し、両人ともその主張の日に死亡し、原告が右不動産を相続したこと、被告が本件不動産に対する昭和二十六年度並びに同二十七年度各固定資産税としてその主張の如く各賦課処分をなし、各徴税令書がその主張の頃原告に送達されたこと、右課税に対する滞納処分として本件不動産に対し差押をなしたこと、財団法人庄慶会が宮城県知事の許可を得てその主張の日に設立、登記されたことはいずれも之を認める。原告がその主張の日に本件不動産を庄慶会に寄附、引き渡し、庄慶会は同日から之を管理収益し、社会福祉事業に着手したことは否認する、その余の事実は不知、と述べ、

本件不動産は、本件固定資産税の各賦課期日において、土地並びに家屋台帳上別紙目録(二)記載の不動産は庄司慶蔵名義に、別紙目録(三)記載の不動産は庄司光一名義に登録されており、之に対し原告並びに庄慶会からも所有権の変動に関し何等の申告もなく又所有権移転登記手続もなされていない。従つて被告は右各台帳名義に基き本件賦課処分をなしたものであつて、何等の違法もなく、その責任は寧ろ原告の懈怠に基因する。

次に本件不動産がその主張の如く庄慶会に移転したとしても、庄慶会の議決機関等枢要な地位は原告及びその親族によつて独占されており、真実その主張の如く所有権が移転したかどうか疑わしいものである。又たとえ移転したとしても、本件不動産は直接社会福祉事業の用に供されているのではなく、本件不動産から生ずる賃料等の収益が社会福祉事業に供されているものであつて、斯る場合は原告主張の如き非課税物件には該当しない、と述べた。

(立証省略)

理由

地方税法第三百七十条所定の期間内に異議、訴願、出訴がなかつたから本件訴が不適法であるとの被告の抗弁について判断するに、右規定は、一応有効に成立した固定資産税の賦課処分の取消又は変更を求める場合に限りその適用があり、本訴の如く賦課処分が法律上当然無効であるとして、その無効確認を求める場合には本来その適用の余地はないと解すべきをもつて、被告の右抗弁は理由がない。

そこで本案につき、原告主張の(二)の(1)の事実について判断するに、別紙目録(二)記載の不動産は原告の亡父庄司慶蔵の所有であつたが、同人は昭和十七年八月十三日死亡し、原告が之を家督相続し、別紙目録(三)記載の不動産は原告の長男亡庄司光一の所有であつたが、同人は昭和十九年五月十八日死亡、原告が之を遺産相続し、いずれも原告の所有に帰したこと、被告が右不動産に対する昭和二十六年度並びに同二十七年度各固定資産税として別紙目録(一)記載の如く各賦課処分をなし、各徴税令書が原告主張の日時に同人に送達されたこと、財団法人庄慶会が原告主張の日時に設立、登記されたことは当事者間に争がない。

而して成立に争のない甲第三号証、証人石川清止の証言並びに之により真正に成立したものと認める甲第二号証の一ないし四、甲第四、五号証、甲第九号証の一ないし四、甲第十三号証、証人氏家俊郎、高柳真三、荘司庄九郎の各証言を綜合すると、原告は昭和二十五年十二月二十八日財団法人庄慶会に対しその所有にかかる別紙目録(二)、(三)記載の不動産全部を寄附直ちに之を引き渡し、以後庄慶会(但し昭和二十七年五月三十日社会福祉法人に組織変更)の所有に属することが認められる。他に右認定を左右するに足る証拠はない。

そこで本件固定資産税の各賦課処分の適否につき考えるに、凡そ土地、家屋に対する固定資産税の納税義務者は、本来課税客体である土地家屋の真実の所有者と一致すべきものであるが、その所有者を捕捉することの徴税技術上の困難、煩瑣並びに税収入の確保と徴税費用の節減等から、右所有者を捕捉する一手段として所謂台帳課税主義を採用し、賦課期日であるその年の一月一日現在における固定資産税課税台帳上の所有者として登録せられているものを納税義務者となし、その年度内における賦課期日後の所有者に変動があつても納税義務者に影響を及ぼさないこととしている。然しながら右賦課期日前に右課税台帳上所有者として登録せられているものが死亡しているときは、本来の立場に戻り、賦課期日現在における真実の所有者を捕捉してその者を納税義務者となすべきものであることは地方税法第三百四十三条に規定するところである。本件固定資産税の納税義務者である庄司慶蔵、同光一は昭和二十六年度並びに同二十七年度の固定資産税の課税標準期日である昭和二十六年一月一日並びに昭和二十七年一月一日以前において既に死亡していることは当事者間に争ないところであり、しかも右賦課期日現在における別紙目録(二)、(三)の不動産の所有者は財団法人庄慶会であること前記認定の通りである。右死亡者両名を納税義務者とする本件各固定資産税賦課処分は違法であり、その瑕疵は重大であるから、当然無効の処分である。

被告代理人は、本件土地並びに建物の各台帳がそれぞれ被相続人庄司慶蔵、同光一名義に登録されており、原告は台帳における所有者の名義変更登録手続を懈怠したために、被相続人名義で賦課したのであるから、その責任は原告にあり、本件賦課処分は有効である旨主張するけれども、法令上、かかる場合に相続人若しくは現に所有する者に対し台帳の所有者名義変更の手続をなすべき義務を課していないし、又賦課期日であるその年の一月一日前に固定資産税課税台帳に所有者として登録されているものが死亡しているときは、台帳上の名義によらずその期日における現実の所有者をもつて納税義務者とすることは前示地方税法第三百四十三条の規定するところであり、賦課期日後に台帳上の所有者名義の変更登録手続がなされたかどうかによつて納税義務者に変動を生ずるものではないから、右主張は理由がない。

よつて、原告の本訴請求は、その余を判断するまでもなく理由があるから、正当として之を認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 新妻太郎 飯沢源助 金子仙太郎)

(目録省略)

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